【事例あり・社労士解説】カスタマーハラスメント対策義務化とは?2026年10月施行の内容と対応のポイント

2026年(令和8年)10月1日から、カスタマーハラスメント(以下「カスハラ」)対策がすべての事業主に義務化されます。根拠となるのは、改正労働施策総合推進法(令和7年法律第63号、令和7年6月11日公布)です。中小企業に対する猶予期間はありませんので、労働者を1人でも雇用していれば対応が必要となります。
本記事では、義務化の中身を具体的な事例とあわせて解説し、対応を怠った場合のリスク、そして何から手をつければよいかまで、順番に解説します。
自社の対応に不安がある方、まず何から手をつければよいか整理したい方は、下記からお気軽にご相談ください。
この記事の要点
1. カスタマーハラスメントとは(3要件の定義)
改正労働施策総合推進法(第33条第1項)では、職場におけるカスハラを次の3つの要素をすべて満たすものと定めています。
- 顧客等による言動であること
- その言動が社会通念上許容される範囲を超えるものであること
- それにより労働者の就業環境が害されるものであること
①「顧客等」には、商品の購入者やサービスの利用者だけでなく、取引先の担当者や、今後自社の商品・サービスを利用する可能性がある人なども含まれます。
また、②「社会通念上許容される範囲を超える」かどうかは、要求の内容そのものが不当な場合(過大な要求など)と、要求を実現する手段・態様が不当な場合(大声を出す、長時間拘束するなど)の2点で判断されます。いずれか一方のみが許容範囲を超える場合でも、カスハラに該当する可能性があります。
③「就業環境が害される」とは、平均的な労働者の感じ方を基準に、業務を遂行する上で看過できない程度の支障が生じることを指します。
正当なクレームとの違い
現場で最も判断に迷うのが、「これはカスハラなのか、それとも正当なクレームなのか」という線引きです。
この線引きを誤ると、経営には方向の異なる2種類のリスクが生じます。(※ リスクの詳細は「4. 対応を怠った場合のリスク」でも解説しています。)
- 本来向き合うべき指摘まで「クレーマー扱い」して片付けてしまう
- 商品・サービスを改善する機会を逃す
- まっとうな指摘をした顧客の信頼を失い、リピーターが離れる
- 現場が身構えすぎて、日々の顧客対応の質そのものが落ちる
- 「よくあるクレームの延長」として現場任せにしてしまう
- 対応が遅れ、要求がさらにエスカレートしやすくなる
- 従業員が疲弊し、離職・休職につながる
- 安全配慮義務違反を問われるリスクが生じる
どちらに転んでも、経営者にとって望ましくない結果を招きます。そのため、両者を正確に見分けることが重要です。
判断のポイントは、カスハラ3要件のうち②「社会通念上許容される範囲を超える」かどうかです。
ここは、①言動の内容そのものが妥当かどうかと、②その内容を実現しようとする手段・態様が妥当かどうかという、2つの軸で判断します。
この2点が客観的に相当な範囲内に収まっていれば、それは(カスハラではなく)「正当なクレーム」ということになります。
具体的にどのような場合が該当するのか、下の図で整理しました。
- 要求の内容が、サービスと関係のある範囲に収まっている
- 要求を実現する手段・態様が、社会通念上許容される範囲内である
- サービスと全く関係がない要求、性的な要求、プライバシーに関する要求
- 契約内容を著しく超える要求
- 対応が不可能な要求
- 不当な損害賠償要求
- 身体的攻撃例)殴る、蹴る、叩く、物を投げる
- 精神的攻撃例)土下座を強要する、SNS等に悪評を投稿すると仄めかす
- 威圧的言動例)大きな声を上げる
- 継続的・執拗な言動例)同様の質問を執拗に繰り返す、揚げ足取り
- 拘束的な言動例)長時間の居座り、長時間の電話
では次に、実際の場面を想定しながら、正当なクレームなのか?カスハラに該当するのか?ぜひ一緒に考えてみましょう。
2. 【ケーススタディ】正当なクレームか?カスハラか?3つの事例で考える
先ほどの①言動の内容②手段・態様の基準を使って、実際に3つの事例で考えてみましょう。一見しただけでは判断がつきにくいものも含めてあります。
こうして見ると、声の大きさや対応にかかった時間といった「印象」だけでは判断できず、①言動の内容と②手段・態様の両方を具体的に確認する必要があることが分かります。特に、現場の担当者が一人でこうした判断を迫られる状況は避けたいところです。次の章では、そのための体制づくり(4つの措置)を解説します。
3. 事業主が講じなければならない5つの措置
厚生労働省告示第51号に基づき、事業主は以下の5つの体制整備を行う必要があります。まず全体像を一覧で確認し、それぞれの内容を詳しく見ていきましょう。
① 方針の明確化と周知・啓発
カスハラに対して毅然とした対応を行い、労働者を保護するという方針を明確にし、社内に周知します(顧客等に対してもこの方針を周知することは、被害の防止に効果的とされています)。
あわせて、現場が実際にとれる対処内容にまで具体的に周知しておくことがポイントです。告示では、対処の内容の例として「一人で対応させない」「顧客等とのやり取りを録音・録画する」「繰り返しの要求が続く場合は電話を切る・退店を求める」「犯罪に該当し得る言動は警察へ通報する」などが挙げられています。方針を作っただけにせず、いざという時に機能するように、現場にも共有しましょう。
なお、録音・録画を行う際は、個人情報保護法を踏まえ、顧客等の個人情報を適切に取り扱う必要があります。
② 相談体制の整備
カスハラを受けた従業員が相談できる窓口を、あらかじめ社内で決めておきます。
窓口を作るだけでなく、担当者が内容に応じて適切に対応できる体制(マニュアル整備や研修)まで含めて整えることが求められます。
③ 事後の迅速・適切な対応
実際にカスハラが発生した際は、事実関係を迅速かつ正確に確認し、被害を受けた従業員への配慮(配置転換やメンタルケアなど)を行った上で、再発防止策を講じます。事実確認にあたっては、周囲の従業員からの聴取に加え、録音・録画などの客観的な証拠を確認することも有効な手段とされています。
④ 悪質事案への抑止措置
特に悪質なケース(過度な要求を繰り返すなど)については、あらかじめ対処方針を定め、実行できる体制を整えておく必要があります。告示では、警告文の発出、店舗等への出入り禁止、法令の範囲内での商品販売・サービス提供の停止といった対応が例として挙げられています。
⑤ プライバシー保護・不利益取扱いの禁止
相談者のプライバシー保護のために必要な措置を講じ、労働者に周知しておく必要があります。また、カスハラの相談をしたことを理由に、その労働者に対して不利益な取扱い(解雇や不当な配置転換など)をしてはならない旨を定め、周知・啓発することも求められます。
守りだけでなく、良好な顧客関係づくりも防止につながる
ここまでは「発生してしまった後にどう対応するか」という視点が中心でしたが「そもそもカスハラを起こさせない」という観点も大切です。
厚生労働省告示第51号でも、事業主が行うことが望ましい取組みとして、従業員が自社の商品・サービスをよく理解し、顧客等への対応力の向上を図るための研修等の実施が挙げられています。
日頃の接客やサービスの質を高め、顧客との良好なコミュニケーションを心がけることは、カスハラの芽を早い段階で摘むことにつながります。「守りの体制」と「サービス向上」を両輪としてカスハラ対策を意識するとよいでしょう。
自社の従業員が「加害者」にならないための努力義務も
ここまでは、自社の従業員がカスハラを「受けた」場合に、どう防ぎ、どう対応するかを見てきました。
しかし、改正労働施策総合推進法には、これとは別に、自社の従業員が他社の労働者に対してカスハラを「しない」ための努力義務も定められています(第34条第2項・第3項)。研修の実施などを通じて、自社の労働者が他社の労働者への言動に注意を払うよう促すことが求められており、この努力義務は経営者自身にも及びます(同条第3項)。
取引先とのやり取りでは、自社が「される側」だけでなく「する側」にもなり得る、という視点も持っておくとよいでしょう。
【判例】カスハラ対策を講じたことで会社が守られた事例
「カスハラ対策を怠ったら、本当に会社の責任を問われるのか」と感じる方もいらっしゃるかもしれません。
実際の裁判例を見ると、対策を講じていたことが会社を守る結果につながったケースがあります。
小型スーパーの従業員が顧客からの迷惑行為を受け、会社の安全配慮義務違反を理由に損害賠償を求めた事件(東京地裁平成30年11月2日判決、「まいばすけっと事件」)では、会社があらかじめ初期対応マニュアルを整備し、発生時には従業員への指導や顧客への謝罪など収束に向けた対応を順次実施していたことなどから、会社の安全配慮義務違反は認められず、従業員側の請求はすべて棄却されました。
東京都もこの判例を「対応が不十分であった場合は、安全配慮義務違反が成立し得る」ことの裏返しとして紹介しています。つまり、あらかじめ体制を整えておくことが、いざという時に会社を守ることに直結するということが、この判例から読み取れます。
自社の現在の体制がこの5つの措置を満たしているか、一度整理してみることをおすすめします。判断に迷う点があれば、下記からご相談ください。
4. 対応を怠った場合のリスク
カスハラ対策を怠った場合にまず実務上の影響が出るのは、行政処分のような公的な措置ではなく、日々の経営そのものです。
仕事の生産性への影響
顧客からの不当な要求に従業員が対応し続けると、電話対応や社内調整、謝罪対応などに多くの時間を取られ、本来の業務に支障が出ます。従業員がカスハラ対応に追われると、生産性が下がります。
従業員の離職・休職
カスハラ対応で心身のストレスを抱えた従業員は、体調を崩したり、「会社が守ってくれない」と感じて退職したりするリスクがあります。ただでさえ人手不足が深刻な中小企業では、これは軽視できません。
安全配慮義務違反による損害賠償請求
労働契約法第5条は、事業主に対し、労働者の安全に配慮する義務(安全配慮義務)を課しています。
カスハラ対策を怠り、従業員が被害を受けた場合、この安全配慮義務違反を理由とした損害賠償請求を受ける可能性があります。
行政上の措置
国の法律に基づく措置義務を果たしていない場合、労働局から助言・指導・勧告を受けることがあります。
いきなり重い処分となることは少なく、まずは助言・指導のような形で改善を促されるのが一般的です。しかし、勧告を受けたにもかかわらずこれに従わない場合は、企業名が公表されることがあります。
5.カスハラ対策は何から始めればよいのか(着手順の目安)
カスハラ対応は、普段のクレーム対応の延長線上にあります。
ゼロから作るというより、今ある対応を洗い出し、義務化に合わせて過不足を整えていくという考え方で、着実に進めていきましょう。
東京都の指針では、企業規模に応じた体制のイメージも示されています。
- 従業員6〜100人程度の企業:対策の推進役は経営者や人事責任者が担い、相談対応・現場対応は現場の上司(店舗のマネージャーなど)が兼ねる、という形で差し支えありません。
- 従業員5人以下の企業:対策の推進・相談対応・現場対応のすべてを、経営者自身が兼務してよいとされています。
(店舗マネージャー等)
相談対応
現場対応
つまり、専門の部署や担当者を新たに置く必要はありません。
指針が挙げる13項目には一つずつ対応していく必要がありますが、それを担う体制は今のままで十分です。具体的な着手順は以下の通りです。
それぞれ、もう少し詳しく見ていきましょう。
1. 現状把握(過去のクレーム対応記録の棚卸し)
まずは、過去のクレーム対応記録を棚卸しします。就業規則にハラスメント関連の規程はあるか、過去にどのような事例があったか、相談を受けたときに誰がどう対応してきたか。ここを把握しないまま次のステップに進むと、後で手戻りが生じます。
2. 基本方針の明確化と周知
基本方針が曖昧なままだと、いざという時に現場が「会社としてどう対応してよいか分からない」まま一人で抱え込みやすくなります。
東京都の指針でも、事業者の取組の最初の項目として、カスハラに毅然と対応し従業員を守るという基本方針を明確にして周知すること、そして自社の従業員がカスハラを行ってはならない旨の方針も併せて明確にして周知することが挙げられています。まずはこの2つの方針を固め、社内外に示すことが出発点になります。
3. 相談体制の整備
相談窓口がなければ、被害を受けた従業員が誰にも相談できずに一人で抱え込み、後の休職・離職につながりかねません。
東京都の指針では、相談窓口を設置すること、担当者が内容に応じて適切に相談対応できるようにすること、相談者のプライバシーを保護すること、相談を理由に不利益な取扱いをしない旨を周知することが挙げられています。
窓口を作るだけでなく、担当者が内容に応じて対応できる体制まで含めて整えることが求められます。
4. 初期対応・内部手続きの整備
現場の初期対応がその場しのぎになっていると、対応者によって判断がばらつき、悪質化したときに手遅れになりがちです。
東京都の指針では、現場での初期対応の手順をあらかじめ作成しておくこと、本社との連携が必要な場合の内部手続き(報告・相談、指示・助言)の手順を作成しておくことが挙げられています。
3章で紹介した「一人で対応させない」「繰り返しの要求が続く場合は電話を切る・退店を求める」といった具体的な行動を、現場が迷わず動けるようあらかじめ明確にしておくことがポイントです。
5. 発生時対応・就業者の安全確保の整備
実際に発生した際の対応が後手に回ると、従業員の心身の負担が増すだけでなく、4章で触れた安全配慮義務違反のリスクにもつながります。
東京都の指針では、事実関係の正確な確認と事案への対応、就業者の安全の確保、就業者の精神面・身体面への配慮を、あらかじめ手順として整えておくことが挙げられています。
6. 教育・研修と再発防止の仕組み
体制を作って終わりにしてしまうと、時間の経過とともに形骸化し、同じ問題が繰り返されがちです。
東京都の指針では、就業者への教育・研修等と、再発防止に向けた取組の実施が挙げられています。
就業規則の改定を伴う場合は、労働者代表からの意見聴取(労働基準法第90条)や労働基準監督署への届出が必要になるため、社労士に相談しながら進めるとスムーズです。
以上が、カスハラ対策の一連の着手順ですが、就業規則の改定や相談窓口の運用など、自社だけで進めるには専門知識が必要な場面も出てきます。
「何から手をつければいいか分からない」という状態が最も避けたいところです。次の章では、こうした場面で社労士に相談できることを具体的にご紹介します。
6.社労士に相談できること
カスハラ対策を進める中で、「これは誰に相談すればいいのか」も分かりにくいポイントです。
ここで、社労士が対応できる範囲を整理しておきます。
・就業規則の改定・手続き(カスハラ規定の追加・労基署への手続き)
社労士が対応できるのは、あくまで社内の仕組みづくりです。相談窓口の設計・運用サポートや、就業規則へのハラスメント関連規定の落とし込みなど、「起きた後の交渉」ではなく「起きる前の体制整備」が中心になります。
一方で、実際に悪質なクレームが発生し、相手方と直接交渉したり、法的手続きを取ったりする場面は弁護士の職域となり、社労士が代理して交渉することはできません。
つまり、「まず自社の体制を整える」段階では社労士、実際にトラブルが起きて相手と交渉が必要になった段階では弁護士、という役割分担で考えていただくとスムーズです。
7.当事務所にご依頼の場合
実際にご依頼いただく場合の流れは、以下の3ステップです。
初回のご相談は無料ですので、「まずは話を聞いてみたい」という段階でもお気軽にお問い合わせください。
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ご契約とサポート開始
ヒアリング内容をもとに、貴社に最適なサポート内容とお見積りをご提示いたします。内容にご納得いただけましたら、正式にご契約となります。
※この段階から料金が発生いたします。
8.よくあるご質問
最後に、カスハラ対策を進めるにあたって経営者の皆様からよくいただくご質問をまとめました。
Q. 従業員が1人しかいない会社でも対象になりますか?
はい、対象になります。労働者を1人でも雇用していれば、事業規模を問わずすべての事業主が義務化の対象で、法改正にあたっての猶予期間はありません。
Q. パート・アルバイトや派遣スタッフも、この対策の対象になりますか?
はい、対象になります。厚生労働省の指針に沿った企業向けの基本方針例でも、保護すべき「就業者」として従業員・パート・アルバイト・派遣スタッフ等が挙げられています。また、派遣労働者については、派遣元の事業主だけでなく、労働者派遣の役務の提供を受ける派遣先にも、この措置義務が適用されます。雇用形態を問わず、幅広く対象になると考えておきましょう。
Q. すでにパワハラ用の相談窓口がある場合、カスハラ専用の窓口を別に作る必要がありますか?
必ずしも別に作る必要はありません。厚生労働省の通達(平26・7・24雇児発0724第1号)でも、さまざまなハラスメントは複合的に生じることがあるとして、相談窓口の一元化が推奨されています。既存のパワハラ・セクハラ等の相談窓口を、カスハラの相談にも対応できる形に拡張する、という進め方で問題ありません。
9.まずはお気軽にご相談ください
所長の牧野ユリアンです。
カスハラ対策は、法律の知識だけでなく、日々の接客・クレーム対応の実態に即した体制づくりが欠かせません。当事務所では、社内のハラスメント対策整備のアドバイス、就業規則へのハラスメント規定の追加・労基署への手続きなど、「起きる前の備え」を中心にご支援しています。
会社の成長や課題の変化に合わせて、対策の内容を見直すことはごく自然なことです。当事務所では、貴社の状況に合わせた無理のない体制づくりをサポートいたします。ご不明な点や気になることがございましたら、まずは一度ご連絡ください。

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